|
しくじった、読みが甘かった
自分の実力に溺れて自滅する人間は、これまで何度も見てきた
でもまさかそれが今度は自分の番だったなんて、ね
予測出来て居たらもっとちゃんと準備をしていただろう
けれどそう。残念ながら俺には未来予知能力なんてそんな便利なものは備わっていない
備わっていないからこそ、これでもそれなりに起こりうる可能性を全て考え、対応できるように充分な準備はして来たつもりだったんだけど
備えあれば憂いなし。昔の人は良く言ったもんだよね
大抵クエストに出掛けて、帰ってくる頃まで全く使わない荷物が沢山出てきて、ああ、これは今度から要らないかな。なんて思って
気が付いたらそう、随分と軽装で出掛ける癖がついてしまったんだ
それでもこれまでは全然危険な仕事でも難なくこなせていたし、自分が怪我をしても仲間を危険にさらす事は無かったように思うんだ
流石に一度利き腕が使えなくなった時は、彼女に随分怒られて、父さんにも心配掛けたっけ
それから又荷物を少し増やすようになったけれど、仕事慣れしていなかった時期と比べれば随分軽いものだった
だけど、今この状況
重力に押し潰されそうな、強い強いミストの中で倒れている仲間達からは、もう息が聞こえない
迂闊だった。読みが甘かった
大して危険な仕事で無いから、と、心配する彼女に留守を任せ、行ってくるよ、と軽く父と別れて、新人研修も兼ねて若いメンバーばかりを引き連れてきた俺は、自分の実力を見誤ったんだ
ロクに回復魔法も使えない、見習い白魔道士のヴィエラ族の女の子の褐色の腕が、視界の右に転がっている
あの子は確か、今度妹をクランに遊びに連れてきます、なんて笑顔で言っていたかな
その隣。シーク族のラニスタの彼は、娘さんが病気だって聞いたっけ
幾つものクランを掛け持ちしながら、過労死するんじゃないかってみんなで心配して
じゃぁ、少し報酬の良い依頼が見つかったから一緒に行こうって誘ったのは俺だ
彼から見て向かい側。俺の左手の方向に最後の一人、バンガ族のウォーリアが倒れている
彼にとってこれは、初めてのクエストだった
ゴロツキだった彼を俺が連れてきたんだ。退屈そうな眼をしていたから、そんな事よりもっと楽しい事をしようよって
三人とも、とてもいい人だったのに
ごめんね。俺のミスだ。責められても仕方がない
けれどもそれも俺が無事に帰れたら、の話なんだ
うつ伏せに倒れた俺は、指一本動かすのも辛い
全身に傷を負って至る所から血が出ている
足は二本とも折れてしまって立ち上がる事も出来ない。利き手である右腕は何とかまだ感覚が有ったけど、左腕は健をやられてしまって全く動かない
口の中に血の味がする。傷が深く内臓にまで達して、ついさっき口から大量の血を吐いたからだ。今でも呼吸をするたびに喉の奥から血が上って来て、唾液と絡みついて気持ちが悪い
それでも意識ははっきりして居た方で、はっきりしていたからこうやって自分の失態を嘆く事が出来るんだけども
もう今さら何を言っても遅いんだ。結果論は、好きじゃない
あの時ああすれば良かったなんて考えるのは性に合わない
瞼が重い。今目を閉じれば、もう二度と開くことはないだろう
せめてもう一度、帰るべき場所へ帰りたかった
……急に、殆ど閉じかけた瞼の裏側で、光が見えた
気になって顔を上げると、目の前に白銀の騎士が立っていた
君の名前は、なんて言うんだったっけ
思い出そうと思ったけれど、もうぼぅっとした頭では何も考えられなくて
ただうわ言のように、たすけて、と言うのが精一杯だった
騎士が頷き剣を振り上げる
ああ、助けてくれるんだ。なんて安心した俺は瞼を閉じて少し笑った
そしたら急に頭の上から高笑いが聞こえて
驚いた俺が頭を上げるとそこには騎士の姿なんて無くて
長いローブで足を隠した不浄の者に見降ろされていた
驚きで目を見開く俺を余所に、彼は俺へ覆い被さりやがて消えた
途端に体が軽くなった
生きている。助かったのだ
けれど、命と引き換えに、俺の体は俺の意思では動かなくなってしまった
『これは契約だ。お前は我の人形である』
ああ、立ち上がった俺はどこへ歩いて行くんだろう
ただ生きたいと思った。それだけだったんだ
唯目の前に現れた救いの神だと思ったそれが人ならざるものだと気付いたのが、あまりにも遅すぎたんだ
|